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2007年05月27日

試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか?(第四部)

前回では、本論から脇にそれて大きな寄り道をして、映画『羅生門(Rashomon)』で杣売を演じた志村喬Takashi Shimura)という俳優を論じている訳ですが、本稿もそのままさらなる迂回路を辿って行きます。

これまでの記事はこちらにあります。
試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか? 第一部
試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか? 第二部
試論:映画『羅生門』をリメイク出来るのか? 第三部

例えば、映画『ゴジラ(Godzilla)』で志村喬Takashi Shimura)が演じた山根恭平博士をみてみよう。

古生物学者の山根恭平博士[演:志村喬Takashi Shimura)]の視点で見るならば、本来ならば、絶滅してしまいこの眼で観る事は絶対に不可能と想われた格好の研究素材(恐竜ゴジラ)が、いまここにいるという悦びは、その研究素材がヒトビトに恐怖をもたらし、絶大な被害を与えるが為に、排除されねばならないという事実を突き付けられた瞬間、おおいなる落胆にとって代わる。この哀しみは、殺戮兵器オキシジェンデストロイヤーOxygen Destroyer)を発明してしまった芹沢大助博士[演:平田昭彦Akihiko Hirata)]の心情と通奏低音となって鳴り響く。
しかもなお、芹沢大助博士[演:平田昭彦Akihiko Hirata)]が、殺戮兵器の悪用を忌避する為に、己の研究成果を一切封印する事を決意し行動したが為に、山根恭平博士は研究素材のみならず、己の後継者をも失ってしまうのである。
つまり、ここで志村喬Takashi Shimura)によって演じられる山根恭平博士という存在は、あらかじめ失われたものを己の手中に納める可能性を与えられながら、それを断念せざるを得ない人物なのである。
しかも、その一方で、己の存在を乗り越えていく若い世代 / 新しい世代を教導し祝福するという役割をも担わされている。
喪失者であると同時に祝福者である事(それはすなわち老いて逝くモノ総てのサダメでもあるのだけれども)、それが映画『ゴジラ(Godzilla)』での山根恭平博士の役割であり、彼を大きな鏡面として、負の主人公芹沢大助博士と、本来の意味でのヒーロー&ヒロインである尾形秀人山根恵美子とが、各々の作劇上におけるポジションを共に照明されあって、物語が形造られていくのである。

トム・ハンクス(Tom Hanks)主演によるハリウッド資本でのリメイク作品が予定されているという『生きるIkiru)』だけれども、粗筋だけ聴くと、ヒューマニズムの押売の様なうっとぉしい映画の様な気がしてしょうがないんだけれども(勿論、これはあくまでも個人的な偏見です)、実際にじっくりと観てみると、面白い映画である事は否定出来ない。それは、物語の構成が妙だからです。

物語前半で、主人公の下級公務員[演:志村喬Takashi Shimura)]が、偶々知り合った無頼派の小説家[演:伊藤雄之助Yunosuke Ito)]とともに、享楽と歓楽の街を彷徨するシーン、ここで主人公は生(と恐らく性)を謳歌しているヒトビトから疎外されている己を発見する訳だけれども、これはそのまま「薮の中」の説話的な物語を覗き見る杣売の体験とモノの見事に照合していると思いませんか?[余談だけれども、黒澤明(Akira Kurosawa)映画のモブ・シーンが発散する膨大なエネルギーに圧倒されると同時に、とても魅力を感じます。]
そして、その疎外された己の最期のレゾンテール(=存在証明)を発見して『生きるIkiru)』という物語が始る(皮肉にも、その物語が始った時は主人公は既に死亡していて、回想シーンとして彼は甦る訳ですが)様に、「羅生門」で杣売******(あえて伏す)という装置を自ら引き受ける事によって、この映画『羅生門(Rashomon)』という映画は終る。
映画『生きるIkiru)』でのその役割は、若い女工が作っているタワイのないゼンマイ仕掛けのウサギが受け持っていた様に、映画『羅生門(Rashomon)』では******であるという事なのだ。

そもそも志村喬Takashi Shimura)という俳優は、そのような役回りを引き受けるキャスティングが多い様な気がするのだけれども?
姿三四郎(Sanshiro Sugata)』での老いた柔術家しかり、『酔いどれ天使(Drunken Angel)』でのアル中の医師しかり。
旧体制 / 旧世代に属する人間でありながら、新体制 / 新世代を象徴する人物との出合いを通じて、新たな己に遭遇する。

志村喬Takashi Shimura)の畢竟の代表作となった『七人の侍Seven Samurai)』の島田勘兵衛も、実は同じ事。負け戦に次ぐ負け戦に疲弊すると同時に、己の老いにも負われながら、あの戦いに参加したのは、百姓のなけなしの米で作られた一杯の茶碗飯だし、最年少の岡本勝四郎[演:木村功Isao Kimura)]を生き延びらせる事だけに心血を注ぎ、結果、負け戦になってしまう。
つまりは「いや、勝ったのはあの百姓たちだ、俺たちではない」

そして、本稿冒頭で紹介した『ゴジラ(Godzilla)』の山根恭平博士に代表される東宝特撮映画で彼が演じた数々の役は、その変奏曲だと思うが、如何でしょう?

第五部につづく。

ものづくし(click in the world!)55.:羅生門<参考資料>

映画『羅生門』
 DVD / 作品解説/criyique / IMDb / Trailer / Sound Tracks
小説『羅生門』 文庫 / on web / 解説
小説『薮の中』 文庫 / on web / 解説
今昔物語『羅城門登上層見死人盗人語(羅城門に登り死人を見る盗人の話)
 文庫 / 現代語訳 on web / 原文 on web
今昔物語『具妻行丹波国男於大江山被縛(妻と伴い丹波の国へ行く男が大江山で縛られる話)
 文庫 / 現代語訳 on web / 原文 on web
映画『生きる』
 DVD / IMDb / 解説 / Trailer
映画『ゴジラ』
 DVD / IMDb / 解説 / Trailer
映画『七人の侍』
 DVD / IMDb / 解説 / Trailer / Sound Tracks / Sound Tracks

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